野の書ギャラリー

書家村上翔雲の作品を少しずつご紹介させてください。日々の雑感もほんの少し

川辺の小さな美術館から

こんにちは。

大きな台風が過ぎまして、昔は影響を受けにくかった当地もほっとしております。

被害に遭われたところの方々が一日も早く日常を取り戻されますようにお祈りいたします。

 

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メドーセージは、花を散らしては咲いてを繰り返し、長く楽しませてくれます。葉の香りも爽やかに 元気で生き生きとした植物です。

 

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先週 久しぶりに外食に出かけました。時々お世話になるお店に電話をしました。

他にお客はふた組だけの静かな夜です。お店には、80年代の洋楽が流れています。ニューヨーク・シティ・セレナーデ。映画は ライザ・ミネリが好きでした。

 

お品書きから 穴子のお刺身とオコゼの薄造りをお願いしました。

穴子は、しっかりとした食感で 噛むほどに身の旨味がじんわりと広がってきます。品のよい甘みを壊さないように、わさびと醤油はほんの少しでいただきました。繊細なお味を大切に味わいたく思いました。

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左上は穴子の肝で 右下のは胃袋だそうです。

肝は色が強いですが、あっさりとしています。お酒のいいおともですね。

 

厳ついオコゼ、こちらは淡白な身に合わせてポン酢です。自家製のポン酢も少しつけるだけに。

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オコゼも胃袋、肝、皮などを手早く造っていただきました。板前さんからどの部分かを教えてもらうのですが忘れてしまいます。もう一度教えていただいて、書き留めました。

右からふたつ目の皮と身の間のきわの部分の梅肉和えが柔らかくて美味しいです。皮と身の間に実(ジツ)がある…。果物でもそうですね。おもしろく思います。

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飲み物の写真を撮るのを忘れていました。

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以前の写真です。

美味しいお魚をいただきたい時に伺う 私たちには、ちょっと贅沢な気分にさせていただけるお店です。

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大きなかまどがあって、蒸し料理も美味しいです☺️

 

 

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最後に美術館へ行ったのは 去年の12月の終わりでした。4月頃のブログには、県立美術館のゴッホ展に前売り券を買っていながら行けないというコロナへの恨み節が混ざったことを書いてしまいました。

高齢の義母もいますので、神戸や大阪へ出かけて行くのも躊躇われます。神戸に住む妹が 郊外からは来ない方が良いと申します。

車で小1時間と近い(車で1時間なら近いうちなのです…) 丹波市立植野記念美術館はどうだろうかと ひと思案して、

この度は、「山本二三展」へ行って参りました。

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エントランスホールは吹き抜けで、作品の垂れ幕が下がっていました。こちらは撮影してもよいそうで、向かって左が「もののけ姫」で 右は「くじらぐも」の背景画です。

 

山本二三(にぞう)さんは、錚々たるアニメーション作品を制作されておられる有名な美術監督と この展覧会で知りました。

背景画で アニメーションの印象が決まるのは想像できますが、特に関心を持ったことはありませんでした。

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会場にずらりと並ぶ背景画は、意外でしたが A4より少し大きなサイズで それぞれ小さな額に入っていました。

絵の端に美術監督の細かな指示が鉛筆で簡潔に書かれているものもあります。

展示されていた作品は、天空の城ラピュタ未来少年コナン、Coo 遠い海から来たクー、タイコンデロンガのいる海、ミヨリの森RPGの背景、小学校6年生の社会の教科書の細密な挿絵や 陸前高田市の 希望の木。 ほんの一部です。

 

じゃりん子チエのお店には、露地の隅のごみや下町のお店の賑わいを感じる乱雑さは描かれていませんでした。それでも大道具の部分と言いますか、がわは隅々まで描き込まれていて 曖昧な箇所はありません。

背景画は、古びた趣の室内も人の気配がないだけで時間が止まったような静寂を感じます。  

ここに計算し尽くしたいろんなものや人物を乗せて 物語の命を吹き込んでいくのですね。アニメーション制作の世界は初めて知る事ばかりでした。

 

一番印象に残ったのは、「火垂るの墓」の作品群でした。作品も30枚と 一番多く展示されていました。

「節子と人形」というタイトルのイメージボード(16.6×25.0cm)は、夕焼けのようにくすんだ薄い赤茶色の絵でした。草もない荒れた道なのでしょうか、清太が妹の節子を抱っこして歩いています。節子はおかっぱが自然に伸びっぱなしになったような髪で眠っているようでした。

メモを取ってはいけないと思って うろ覚えで帰って来てしまい申し訳ありませんが、

「8月に入って、頭がグラグラ揺れるだけで もうお気に入りの人形を抱く力もない。」という内容の文章が ボードの左下に小さく鉛筆で書かれていました。

 

「捨てられた思い出」というイメージボードは、草叢の上に サクマ式ドロップスの缶から 節子の遺骨がこぼれ出ていくつもの蛍の淡い丸い光が取り巻いている絵が描かれていました。

私は 子どもの頃に西宮市に住んでいたことがあり、夙川(しゅくがわ)、満池谷(まんちだに)と、舞台となった地名を懐かしく思います。小さい頃には「まんちだに」は、どこか不思議な音に聞こえました。

満池谷の貯水池のほとりを描いた美しい水彩の背景画がありました。

こんもりと緑深い丘の生茂る草の中に、黒く茶色くふちを取って四角に刳られた暗い穴がふたつ見えました。「火垂るの家」(25.9×36.2cm) 。そこが兄妹がたどり着いた「清太と節子の家」とのことでした。

 

当時の14歳の少年、自らも亡くなった清太は誰にも助けを求めないで 妹を餓死させた無責任な兄なのでしょうか。

状況が違いますので比べられないことかもしれませんが、11年前に14歳だった息子や息子の友人たちは、どちらかと言えば単純で素直でした。部活や友人同志で他愛なく遊ぶことが好きで、学校生活を楽しんで過ごしていたように思います。

私どもの子どもは、いなかの子どもで おとなばかりの環境で甘やかして育ててしまいましたので何とも言えませんが、もっとしっかり育てていれば 4歳の妹がいたとして あの状況で 一人きりで守ることができたのかどうか。…それでも酷なことと思います。

火垂るの墓」の次には、「はとよ ひろしまの空を」という作品の、精緻な「原爆ドーム」の背景画と、「原爆の後」の背景画が続きました。瓦礫の地面にひどく傷ついた人々が累々と倒れていました。透明のセルを小さな形に切って描かれた人々は 瓦礫の背景画に貼られていましたが、極く単純化されていても悲惨な状態でした。

 

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最後のフロアに 5分ほどのビデオが流れていて、拝見しました。

山本二三さんは、中学卒業後、集団就職長崎県五島列島を離れ、岐阜県の夜間高校へ進み 建築を学ばれたそうです。昼間は石材会社で働いて夜間高校から専門学校へ。そこで水彩画を学ばれたとのことでした。水彩画を描く時には、紙に穴が空くほど描けと指導されたことが後に役だっているとおっしゃっておられました。ゆっくりとお話される穏やかなお顔。

 

屋久島へ出かけられて取材された「もののけ姫」のしんと深くて木霊の気配が漂う シシ神の森の 苔に覆われた木々や それに絡みつく花々、

室内から受ける無機質さとは異なる 生命の力のようなものが 小さな背景画から迫って来るようでした。

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時をかける少女」の主人公の家の道路沿いの外壁いっぱいに咲く古めかしくも華やかな植栽の庭など、背景画やイメージボードは 吸い込まれるように美しい水彩画でした。

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(以上は、展覧会撮影用のボードとパンフレットの写真です)

 

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海水温度が高くなっていると聞きましたが 季節は巡り、桜の葉が栗色になってかさかさと落ちてきました。ここ数日で朝夕の空気が軽く感じられます。

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しばらく 桜の落ち葉を毎朝掃き集める日が続きます。

美術館のお話の時は、つい長くなってしまいます。ごめんなさいね。ご覧くださいましてありがとうございます。

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「存在を超えた無限なもの」(68×69cm)


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「存在に還える無限なもの」(68×69cm)

草野心平 詩抄  村上翔雲 書  

明石市立文化博物館所蔵(作品33 34)