野の書ギャラリー

書家村上翔雲の作品を少しずつご紹介させてください。日々の雑感もほんの少し

月明かりが影をつくる時間には

こんにちは。

まず先に お詫びをいたします。すみません。また、うっかり下書きを投稿してしまいました。すぐに取り消しましたが、前回の記事が新しいもののように出てしまったようで
ご訪問くださった皆さま、改めてスターまでくださった方もいらっしゃって とても恐縮しています。

申し訳ありませんでした。本当にありがとうございました。

 

 

☂️

梅雨入り前の頃。雨を含んだ夜にベランダに立つと、しじまに濃密な香りが漂ってきました。虫の声も聞こえない静かな夜です。今年は花の季節が早倒しのようですが、クチナシにはまだ早い頃かと思いました。

ベランダから眺める薬師さんの丘の斜面に、以前 義父が植えた蜜柑の木が 白く花盛りになっているのが見えました。

ここに住むようになり、花を間近に見て初めて 蜜柑の花の香りが甘く芳しいことを知りました。

昼間に近づいて蜜柑の花を写真に撮ってみたく思いましたが、雨なのと、昔 手積みされた石垣の隙間に棲むマムシがこわいのとで近づけませんでした。

 

10日ほど前には、柚子の木の蕾が膨らんできていました。ほんのり黄を添えた優しい白い色。

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朝、柚子の木に花が咲いていることに気づきました。

f:id:snow36:20210527163520j:image去年、木にいたカミキリムシを見失ってしまったためか、それとも世話が足りなかったためなのか、枯れかけた枝が目立ちます。
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柚子の花もまた、湿度の高い夜に ゆるりと漂うジャスミンの香りを思い起こします。蜜柑の香りより 少し澄んでいるように感じました。

 

蜜柑も柚子も 実の爽やかな香りとは異なり、花は濃厚な香りを放っています。アシナガバチや小さな虫が 盛んに飛び回っていました。

今は 花びらが一枚ずつ散り落ちて、雨の止み間に見てみると、花の跡には小さな緑の丸い実が見られます。

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🌿

以前書きました 仕事に使う集塵機が 相変わらず作動が悪く、メーカーの方に何度も来ていただいて見てもらいながら仕事をしています。連れ合いの作業服は錆色になってきました。叩くと細かな鉄粉が落ちてきます。

日が経つにつれて粉塵はましになってきましたが、不具合が治まった訳ではないため 防塵マスクで対応し続けています。でも、仕事を続けられるのは本当にありがたいことですよね😉(作業場の仕事をしないで心配するだけの私が申すのもどうかと思いますが…)

f:id:snow36:20210527164550j:image庭藤は、今年はいつもより花が少ないかもしれません。

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🍵

気持ちだけが忙しない毎日に、木皿泉さんのエッセイを読みたくなって「ぱくりぱくられし」を借りました。

緊急事態宣言の時なので 図書館の本をいつもより1週間長く借りられました。読むのが遅い私にはありがたく思います。

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どちらかと言うと、やや不穏にさえ感じるタイトルと、マス目にペン。犬と猫でしょうか。絵本のような表紙に惹かれます。

木皿泉さんご夫婦ユニットの会話形式のやり取りで、弥生犬さん(ご主人のことですね)と 縄文猫さん(こちらは奥さん)の続くお話が楽しくて、

「木皿食堂」ではそこまで見られないご夫婦の普段のやり取りが生き生きと伝わって参りました。

タイトルの「ぱくりぱくられし」の由来となった作品をパクられ法廷で争われたご経験や、更にご自身も「ヘンタイよいこ新聞」からパクっているとのお話。(どんなことか私は詳しく知らないのですが、影響されたと言うことかもしれません)

作品「すいか」の中で、自信のない主人公に麻丘ルリ子さん演じる大学教授が言うセリフ「居てよしッ!」は、ドラマを観られた皆さんお好きだとのお話。木皿泉さんのあたたかな世界に浸ります。

例えば、奥さまの縄文猫さんが、「弥生犬さんは、自分には行くところがないとぼやくけど、他の人も同じだと思いますよ。イヤなことがあってもふつう逃げ場所なんてないですから。」と言えば、

ご主人の弥生犬さんが、「たしかに。寝室のエアコンの温度をめぐって不満が爆発寸前の夫婦だっているでしょうからねぇ。」と答えるところ。(人魚姫)

話しているうちに次第に話題が転じていく家族の会話を見るようで 親しみを感じます。

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味わい深くほのぼのとした空気や、「ちょちょまう」「たゆたゆしている」といった独特の表現が緩く流れる会話の中に、きりっと真実を突いた作家ならではの言葉が差し込まれる文章は、読むほどに心の中に静かにしみ込んで 豊かな印象を残していきます。 

いろんな分野の本からの引用もとても興味深く、「嘘のない青い空」の短いエッセイの数々は、ご自身が暗い気持ちになっていた時期のものと 書いておられましたが、内省から紡ぎ出される言葉が優しく力強くて、淹れたてのお茶の香りを楽しむひとときのような疲れが取れる感じがいたします。

だらだらとした感想文になってしまいました。

「ぱくりぱくられし」は、表題と同じ題の「ぱくりぱくられし」ご夫婦の会話形式、「嘘のない青い空」、ラジオドラマ「け・へら・へら」が収められています。

ゆっくり言葉を辿る間に、気持ちが柔らかくなってきたようです。心の持ち方だけでも優しくいたいです。

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🐞

娘が 3歳児クラスの子どもさんたちと園庭にいると、「これなに?」

見ると、黒くていかつい鎧を着た虫がいたそうです。蜘蛛のように見えますが脚は6本。やまぶき色の点々が左右にあります。

「これは てんととうむしの子ども」そばにいた子が答えます。親より大きいようです。

てんとう虫の幼虫を「てんととうむし」と呼ぶ言葉もかわいらしく(ちょっと言いにくいですね) 、娘は直さないで聞いています。

 

f:id:snow36:20210527164459j:image去年は、花が咲かなかった白鷺草。今年はどうでしょうか。


昨日 歩いていましたら、麦畑の後に始まる田植えのために、用水路を水が勢いよく奔っていました。

今夜は、水の張られた田んぼから蛙の鳴き声が賑やかに聞こえています。

雨が止んで、月明かりが くっきりとした影をつくる夜には、離れて暮らす家族のことを想います。 どうぞ元気で。 明日も止み間がありますように。

いつもご覧くださいましてありがとうございます。

 

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「どこかに月がある 山の線はっきり 山頭火 句」(240×320m/m) 種田山頭火

 

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「行く道のかすかなる鶯の音 順三郎の詩」(75×115m/m) 旅人かえらず 15      西脇順三郎 詩 村上翔雲 書